S.20' 8月末  父 の 帰 還 !

 それから一週間位たったころ、いきなり父が帰ってきました。 髭面でボロボロの戦闘帽に汚い軍服を着て、大きなリュックを背負って玄関に立っていました。

 

 ボクたちはビックリして奥に逃げ込みました。 すると、母が「 お父様よ、ご挨拶は?」と、ボクたちに言い「 ご苦労様でした、おかえりなさい、よく、ご無事で・・・」と座って挨拶していたのですが、その目には一杯涙が溢れ、あまり言葉にもならないようでした。  

 ボクは恐々ながらも一緒に座って挨拶しました。

すると、父はいきなりボクを抱き上げて「 大きくなったな~」と髭面を擦り付けてきたのです。 ボクはホッペが痛かったのですが、父の涙を見たら何も言えませんでした。


洋治は、まだ怖がって泣いていました。 父が手を伸ばして抱こうとしたら、泣きながら母の後に隠れてしまったのです。 「 覚えてないか? 情けないな~」と言い、今度は母が抱いている征三を抱き上げて「 この子が征三か、可愛い顔してるな~ こんなにみんなを立派に育ててくれて、苦労かけたな~」と改めて母に言いました。 母は黙って、ただ涙を流しているだけでした。

そして、おもむろに大きなリュックを開け「 お土産だぞ!」

と、中に入っている物を取り出し始めました。 

  まず、リュックに括りつけた軍使用の毛布が3枚、そして、リュックの中から出てきた物は沢山の缶詰、乾パン、それにお米や粉ミルク等、色んな物がまるで玉手箱のように出てきたのです。 父は、「 軍の備蓄品を、皆で分けたんだよ。」と言いながら、ボクたちに先ず乾パンを分けてくれました。 兵隊さんってこんな美味しい物を食べていたんだと、ボクは改めて感動したものです。

 

 それから、父は井戸で身体を洗い、髭も剃って、浴衣に着替え、サッパリした格好でボクたちの前に座りました。

 そこで、ボクはやっと父の顔を、ハッキリと思い出したのですが、洋治は相変わらず怖がって寄り付こうとはしませんでした。 その日の晩御飯は、父の復員祝いと言うことで、久しぶりの白いご飯と缶詰の凄い、おご馳走でした。

 父は、母が何処からか分けてもらった、大好きなお酒を飲んで「 酒なんて久しぶりだよ!」と上機嫌で歌を歌ったり、軍隊に居たときの色んな話をしてくれました。 

 でも、その話しはボクには、とても衝撃的なものだったのです。

 

 それは、父が深夜、歩哨に立っていた時、明かりが何も無い真っ暗闇のなか、ボクが日の丸の旗を振りながら歩いてきたのが見えたそうです。 父は驚いて駆け寄ろうとした時、一瞬、銃を落としてしまい、それを運悪く上官に見られたそうです。

 そして、「 貴様! 天皇陛下から賜った銃を、何てことするんだ!」と皮ベルトで嫌と言うほど殴られた話しとか、部隊が戦地に転属することになり、港で輸送船を待って整列している時に、その場で父一人だけに急遽、事務所勤務の指令が下ったそうです。 そして即刻、その日から事務所勤務が始まったそうですが、父が乗る予定だった輸送船は翌朝、敵機に撃沈されて乗組員は全滅だったそうです。

 「 戦友には悪いけど、本当に命拾いしたよ。」と言っていました。 それから、父が海軍基地の勤務でしたので、色んな航空母艦や軍艦、巡洋艦、戦闘機や特攻隊の話しなどを沢山してもらいました。 ボクは、目を輝かせて一生懸命聞いていたのですが、最後に一言、「 和衛、軍艦や戦闘機は皆、戦争で人を殺すための兵器なんだぞ! 同じ人間同士が殺しあって、勝っても負けても、絶対に良い世の中にはならないんだよ。 後はボクたちが、世界中のみんなと仲良くして、戦争なんて無い平和な国を作っていくんだよ。 和衛と言う名前は、平和をまもる、と言う意味で付けた、とても大事な名前なんだぞ。」と言い、そして「 さて! 明日から早速、頑張らなきゃな~ 忙しくなるぞ~」と言い、その場でゴロンと横になって、たちまち大きなイビキをかきはじめました。


「 疲れてらっしゃるのね~ ボクたち静かにしてなきゃ駄目よ 」と言いながら、母は優しく毛布をかけてあげていました。 「 もう遅いんだから、ボクも寝なきゃ駄目よ!」と言う母の声に、ボクは父の毛布に潜り込んで寝ようとしましたが、特攻隊の兵隊さんの話を思い出し、何だか興奮して、なかなか寝付かれませんでした。 でも、父の手を触っているうちに少し安心して、いつのまにか眠ってしまったようです。


 翌朝、目が覚めた時はもう父はいませんでした。 ボクは驚いて「 お父様は? また行っちゃったの?」と母に聞いたら、「 これからのお仕事の事と、お家を探しに行かれただけよ。夜になったら戻ってみえるわよ。」と言う返事でホッとしました。