S.20' 6月29日佐 世 保 大 空 襲 !(2)

 

 しかし、間もなく B29の重厚な爆音が聞こえ、次第にボクたちのいる上空まで近づいてきました。 7,8機の梯団を組み次々に現れるたくさんの B29、それはまるで佐世保の空を埋め尽くさんばかりでした。 


 そして、一斉に焼夷弾をばら撒きはじめたのです。 その光景は、あたかも「 火の雨 」が降っているみたいでした。

いよいよ、B29の本格的な絨毯爆撃が始まったのです。


人々の泣き叫ぶ声、米軍の艦載機が落とす爆弾の破裂する爆発音や大きな火柱、日本軍の高射砲の炸裂する音、目まぐるしく交差する探照灯の光り、落下傘で落ちてくる照明弾の光りで、辺りはまた昼間のような明るさになりました。

 

 ボクたちは、また慌てて山道を登り、安全な山手の方に向かって逃げ始めました。

 小雨はまだ降り続いていましたが、周りの家や雑木林が燃えている熱で、体中が熱くて、我慢強いボクも、ついに泣き出してしまいました。 オジイチャンは「 チョッと休もう!」と言い、道端に有った大きな防空壕に声をかけました。

 

でも、中からは、「 他町内の人は入れません!」と返事が返ってきたのです。 すると、オジイチャンは「 バカヤロウ! こんな時に町内もクソもあるか! こっちは、女子供連れなんだぞ!」と大きな声で怒鳴り、半ば強引に戸を開けさせ、皆で潜り込みました。  防空壕の中には、沢山の人が立っていました。 降り続いた雨で、ボクの膝位まで水が溜まっていたのです。 泥濘の中、ボクも我慢して立っていました。 でも、火の海の中を逃げて来たボクの手足や顔は焼けるように熱かったので、泥水の感触がとても気持ち良く感じられました。

 

しばらくして、大きな音と共に、少し離れたところに建っていた家が燃えて崩れ落ちてきました。 オジイチャンは「 ここも危ないぞ! 蒸し焼きななるぞ!」と、皆を促して、逃げ出す決心をしたのです。 

 

でも、ボクの足は泥濘に埋まって身動きも出来ない状態だったのです。 そんな、ボクをオジイチャンは引っこ抜くように抱き上げて、外に出て走りだしました。 母たちも一生懸命、ついてきているみたいでした。

 ボクは、自分が裸足なのに気が付いて「 下駄が無いよ!」と訴えたら、オジイチャンは「 それどころじゃないだろう?下駄なんか、また新しいのを買ってやるよ!」と𠮟られましたが、カコチャンの下駄をなくしたことに、チョッピリ罪悪感を感じてしまいました。

 

道路には、まだあちこちに焼夷弾が盛んに火を噴いていました。 ボクを抱いたオジイチャンがそれを飛び越す際、足に火の粉が当たり、少しだけ火傷をしてしまい、その熱さと痛さに我慢出来ずに泣き出してしまったのです。 すると、オジイチャンは、「 小国民だろう! そのぐらいのこと我慢しろ!」と一喝されてしまいました。  ボクは、仕方なく、泣くのを止め、必死で我慢することにしました。

 まだまだ、B29は次々と現れ焼夷弾を所かまわずに撒き散らしていたのです。 山道や林の中まで、点々と落ちている焼夷弾の噴き上げる炎や、家や樹木の燃える盛る炎と煙りで、とても目を開けられないみたいで涙が止まりませんでした。  それに喉が痛くて、風邪もひいてないのに咳がでて、顔や手足、身体中が燃えているように熱く、とても我慢できる状態ではなかったのです。 ボクはオジイチャンの背中で、また泣き出してしまいました。 

 

 ボクたちは地面に落ちて燻ぶっている焼夷弾や、まだ燃えている木材なくどを飛び越えながら一生懸命、山道を登り続けました。

 しばらく登った所に、まだ燃えていない大きな竹藪がありました。 「 よし! ここまで来れば大丈夫だろう。しばらく、ここで休もう。」と言うオジイチャンの声に、ボクたちは、渡りに舟とばかりに竹藪の中に潜り込みました。

 母もオバアチャンも崩れるように、その場にしゃがみこんでしまいました。 ボクもオジイチャンの背中から降ろしてもらい、その場に座り込んでしまいました。

 

 しばらく、気が抜けたみたいに座り込んでいた母たちも、「  オイ! お前たち怪我はないか?」と言う、オジイチャンの心配そうな声に、やっと我に返ったみたいで、慌ててボクたちの身体を調べました。 幸いにも皆、かすり傷や小さな火傷位で大した事はありませんでした。


 征三は毛布に包んで、母がしっかりと抱いていましたが、あまり静かだったので、心配してそっと毛布を捲ってみたらら、目をパッチリ開けて、ニコッと笑ったのです。 ボクもビックリしましたが、母は「 征三が笑ってるよ!」と泣き笑いしていました。 オジイチャンは「 こりゃあ、大物になるばい!」と、大笑いしたので、ボクもホッと安心して、肩の力が抜けたような気がしました。

   

 しかし、笑っているオジイチャンや母たちの衣服は、あちこち焼け焦げて、足は真っ赤になり、血だらけだったのです。  特に、母の足は大きく腫れ上がり、血で真っ赤になっていました。 ボクが心配して「 早く病院に行かなくちゃ!」と言ったら、母は「 病院はもう焼けちゃってるみたい、後でお薬を付けるから、大丈夫よ。」と言ってくれました。  


 ボクは安心して、手で涙を拭きながら改めて空を見上げました。 すると、薄明るくなってきた遠くの空で、B29の編隊が探照灯の光りに照らされ、銀色に輝きながら、まだ盛んに焼夷弾を落としているのが見えました。 焼夷弾は、一つの光りの玉が落ちてくる途中でパッと広がり、沢山の光りの玉になって降り注いでくるのです。 それは、まるで両国で見た花火のようでした。 ボクはしばらく、恐さも忘れて、その美しさに感激して見とれていました。